2011年5月17日大阪:ラッコランド乳児うつぶせ死(提訴)
「大阪市にも責任」乳児うつぶせ死、損賠提訴へ2011/05/17 15:41 産経新聞
大阪市都島区の認可外保育施設「ラッコランド京橋園」(閉鎖)で平成21年、生後4カ月の長男がうつぶせ寝のまま窒息死したのは「施設職員が注意義務を怠ったのが原因で、大阪市にも指導監督責任があった」として、両親が来週にも、市と運営会社の元実質経営者ら数人に計約6千万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こす。市は死亡の約2カ月前、施設に立ち入り調査をしており、原告側は施設の閉鎖などを命じていれば事故は防げたと主張している。認可外施設で起きたうつぶせ寝による死亡事故をめぐり、行政側が訴えられるのは異例。
厚生労働省は11日、平成21年12月から22年12月までの間、保育施設で発生した死亡事故が12件に上ったと発表した。乳幼児が睡眠中に死亡するケースが最も多く、厚労省保育課が注意を呼びかけている。厚労省によると、全国の約3万4221施設(認可2万3068、認可外1万1153)から計50件の事故報告があった。
提訴するのは、亡くなった長男、幸誠(こうせい)ちゃんの両親の棚橋勇太さん(23)と妻の恵美さん(23)=大阪市旭区。提訴に合わせ、元実質経営者らを業務上過失致死罪で大阪府警に刑事告訴する方針。
両親によると、同園に幸誠ちゃんを預けたのは21年11月17日午前8時半ごろ。幸誠ちゃんは保育部屋の床に寝かせられた後、同11時50分ごろ、泣き声に気付いた男性職員が隣の部屋のベッドに寝かせた。約1時間後、幸誠ちゃんがうつぶせ寝のまま鼻血を出しているのに女性職員が気付き、病院に搬送したが、午後2時10分過ぎに死亡が確認された。死因は窒息だった。
厚生労働省が児童福祉法に基づき定めた認可外保育施設指導監督基準では、保育従事者の3分の1以上(2人の場合はうち1人)は保育士か看護師の資格が必要と規定。都道府県や政令市などは、違反事業者に改善勧告のほか、事業停止や施設の閉鎖命令などの措置を取ることができる。
市によると、同園には全職員7人のうち保育士の資格者が1人しかいなかった。事故当時は不在だったため、無資格の職員2人が園児17人を保育していた。
14年6月には系列の「ラッコランド十三園」(淀川区)でも同様の死亡事故が発生。15年に開設された京橋園に対し、市は毎年9月に立ち入り調査を行い、少なくとも19~21年の3年連続で保育士不足などを指摘し改善勧告をした。両園は22年3月末までに自主的に閉鎖した。
原告側代理人の斎藤ともよ弁護士(大阪弁護士会)は「施設側の責任は大きい。市も危険を予見できたのに、適切に権限を行使しなかった」と指摘。一方、元実質経営者は「10分おきに見回りをしていた。放置してはいない」、市は「調査後、改善に向けて指導しており、施設側からも『有資格者を募集中で早急に採用する予定』との報告を受けていた。結果的に死亡事故につながったが、予測はできなかった」としている。
■死亡事故率 「認可」の20倍
厚生労働省の指導監督基準に基づき、事業者が自由に設置できる認可外保育施設は、行政側が計画的に設置する認可保育所と比べて行政チェックの目が届きにくく、うつぶせ寝などによる子供の死亡事故が多発している。専門家は「行政によるペナルティーを厳しくする必要がある」と指摘している。
保育施設で死亡した子供の遺族らでつくる「赤ちゃんの急死を考える会」(横浜市)の調査によると、昭和36年度~平成20年度に保育施設で発生した死亡事故240件のうち、認可外での事故が約85%を占めた。16~21年の厚労省調査を基に同会が算定した死亡事故発生率は、認可外が認可に比べて約20倍高かった。
同会の小山義夫副会長は「厚労省基準を満たしていなくても実際にはほとんど罰せられない」と指摘。今回のケースでも事業停止や閉鎖などの措置が取られなかったが、行政側は「利用者の生活に直接影響が及ぶため、実効的措置を取りにくい」(大阪市子育て支援部)と実情を明かす。
認可外施設は認可保育所に入れない待機児童の「受け皿」になっており、同様の事故の増加を危惧する声も強い。大宮勇雄・福島大教授(保育・幼児教育)は「国は認可保育所を増やす一方、基準に違反している認可外施設に対する行政権限をもっと厳格化する必要がある」としている。